【短編】さかさまの世界-起-
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あるとき、鉄棒が大好きな少年がいた。
その少年は、鉄棒が大好きで休み時間はいつも鉄棒にぶら下がっていた。
春夏秋冬いっつもだ。
あるとき、先生がその少年に尋ねた。
「ねぇ、どうしていつも鉄棒で遊んでるの?」
少年は、手慣れた様子で逆上がりをし、途中でとめてみせた。
「こうやってね、途中で止まると地面と空がさかさまに見えるの。」
「こうしていると、さかさまに見えるの。それが面白いんだ。」
少年は少し苦しそうに答え、ゆっくり足をついた。
どうやら、まだ長くさかさまの状態は続けることができないらしい。
「ふーん、先生にもやり方教えてよ。」
先生は少年に言う。
「えー、どうしよっかな。」
少年は意地悪そうな笑みを浮かべている。
「うーん、いいよ。そのかわり、この世界は僕と先生の秘密ね。」
少年はどうやらこのさかさまの世界を自分だけのものと思い込んでいるらしい。
少年は、先生に逆上がりの方法を教え、2人で景色を見た。
まわりの子供たちからは、その様子は少し変わっているけどとりとめのない光景に見える。
彼のさかさまの世界に1人住人が増えたようだ。
季節は、春から夏へと移ろうとしていた。