華の日曜日

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【短編】さかさまの世界-結-

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季節は冬になった。
 
さかさまの世界は、また少年だけのものになった。
 
みやもと先生は学校を辞めた。
 
結婚して旦那さんの住むオーストラリアという国に行くらしい。
 
外で、雪合戦をする同級生をみながら、よしむらは考えた。
 
上着をきていても、寒い。
 
日本海側の冬は厳しいのだ。
 
「1人じゃやっぱりつまらない。」
 
以前は1人でいることに何も思わなかった。
 
だが、みやもと先生と一緒にさかさまの世界にいるうちに2人でいることの楽しさを覚えた。
 
よしむらは考える。
 
「おーい。」
 
遠くから、音の波が届く。
 
「おーい。よしむら。」
 
まただ。
 
よしむらは、鉄棒からおりて、雪の地面に足をついた。
 
「なあ、よしむら、今一緒にかまくら作ってるんだけど、一緒に作らないか?」
 
声をかけてきたのは、よしむらと同じくらいの身長のまつもとだ。
 
「なあ、面白いぜ。かまくら作ったら、みんな集めてその中で弁当食べようと思うんだ。」
 
まつもとの声はよく響く。
 
声を出すと同時に、息が白くなる。
 
「うん、ありがとう。でも、こっちの方が楽しいし。」
 
「でも、お前1人じゃん。鉄棒なんていつでもできるだろ?」
 
「うん、いつでもできるけど、今したいんだ。」
 
「うーんそうか。でもかまくらつくるなんて、今雪が積もってるときにしかできないんだぜ。」
 
よしむらは、鉄棒に体をあずけ、腕組みをした。
 
しばらく腕組みをした。
 
まつもとにとっては、数秒と思えた時間が、よしむらにとっては数時間に思えた。
 
目をパチリとあけたよしむらは、かまくらの方に歩き出す。
 
「おっ、いいね。ついてこいよ。」
 
まつもとは、かまくらに向かって走り出す。
 
いつしか、よしむらも走り出していた。
 
それ以降、よしむらは鉄棒遊びをやめた。
 
鉄棒をすることはあっても、さかさまの世界に行くことはなくなった。
 
今度さかさまの世界に行くのは誰だろう。
 
小学校の鉄棒は、いまも残されている。
 

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