【短編】さかさまの世界-承-
スポンサーリンク
季節は春から夏を迎えた。
少年は、いつものようにさかさまの世界にいる。
平日も休日もずっとだ。
今までと違うのは、平日には先生がいること。
「みやもと先生は僕の仲間だ。」
先生の名前はみやもとと言うらしい。
少年は、この日も学校にきていた。
今日は日曜日。
学校の校庭では野球クラブの子供達が野球をしている。
いつものように、少年は鉄棒にぶら下がった。
「どうして、地面は青いんだろう。」
さかさまの世界では、地面が青い。
空が地面、地面が空だから。
少年は腕を組んで考えるふりをしてみた。
あくまで、ふりだ。
考えるふりをしていると、大人がほめてくれるのを知っていた。
「おーい。」
音の波が少年の耳にひびく。
目をあけた少年は、目の前に野球ボールがあるのに気づいた。
少年は、さかさまの世界から戻り、ボールを手にする。
「それこっちに投げてくれよ。」
声をかけた少年が遠くで叫ぶ。
小さなおにぎりみたいな野球ボールを少年は思いっきり投げた。
野球ボールは、声をかけた少年の手前でバウンドした。
「ありがとなー。」
少年は届かなかったことを悔やんだが、すぐ忘れた。
嫌なことを覚えられない性格なのだ。
そして、またさかさまの世界へ戻ろうと鉄棒に両手をかける。
汗でにじんた両手に、夏の風が強くぶつかっていた。